家族の介護で悩んでいることはありませんか?

高齢化が進んでいる近年の日本では、介護の問題は大きな課題です。筆者は作業療法士として多くのご家族と関わってきましたが、ゴールの設定を「施設に入所するのか」「在宅で介護をするのか」で悩むご家族様は非常に多いです。

作業療法士としては、高齢者施設への入所がご家族様とご本人様の負担が少なく、おすすめではあります。

しかし一方で、家に帰りたいと思う患者さまと、在宅で介護をしたいと考えるご家族様の気持ちも十分に理解できるため、方向性の設定はいつも大変です。

ただ、最近は国としても在宅での介護を推し進めている面もあるので、在宅での介護の重要性が増していることも確かです。

しかし、いざ在宅介護を始めてみると、分からないことが多く、想像以上の負担を抱えてしまい、早々に生活が行き詰まるケースも珍しくありません。

本記事では、在宅介護を始めようとしている方や、今現在困っている在宅介護初心者さんに向けて、押さえておきたいポイント7つを解説していきます。

ぜひ、在宅介護の参考にしていただけますと幸いです。

1.在宅介護を選ぶ前に知っておきたい3つの選択肢

病院から退院する際に「在宅介護にするか、施設にお願いするか」で悩む方はとても多いです。退院後の選択肢は、大きく分けて次の3つがあります。

  • 自宅での在宅介護
  • 施設介護(特養・有料老人ホームなど)
  • 自宅+ショートステイ・通所サービスなどの併用

在宅介護は、住み慣れた家で過ごせる安心感がある反面、家族の時間・体力・気力を大きく使います。

一方、施設介護は費用負担は大きくなりがちですが、24時間体制で専門職が関わるため、家族の直接の介護負担は軽くなります。

老人ホームの場合、月10〜30万円程度が一つの目安とされることもあり、地域や施設の種類によって差が大きいのが実情です。

大切なのは、「家族が長く続けられる形はどれか」です。最初から在宅一本に決めてしまうのではなく、「しばらくは在宅+デイサービス」「限界を感じたら施設も視野に入れる」など、柔軟なプランを考えておきましょう。

2.家族だけで抱え込まない「協力体制」を決める

在宅介護でいちばん問題になりやすいのが、「気づいたら一人に介護が集中していた」という状態です。

厚労省の調査でも、介護を理由に1年間で10万人以上が離職しており、その多くが女性というデータがあります。

筆者も作業療法士になる前に母親を在宅で介護していましたが、はじめは家族全体で協力体制ができていたものの、時間が経つにつれて徐々に筆者に介護が集中していく、という体験をしました。

在宅で介護を行う場合、費用がかかるため外で稼ぐ人が必要になるので、一人に負担が集中するのはある程度仕方のない面もあります。しかし、負担を抱え込む本人としては納得しがたいのも事実です。

ひとりに負担がかかり続けると、家庭内の雰囲気は非常に悪くなり、在宅介護が崩壊する原因になりかねないため、在宅介護を始める前に話し合いをしておく必要があります。

在宅介護を始める前に、家族で話し合っておきたいのは次の4つです。

  • 誰が、どの時間帯・どの役割を担うか
  • 仕事や子育てとの両立はどこまで可能か
  • お金はどこからどれくらい出すのか
  • 「ここまで来たら在宅は難しい」というライン

たとえば「平日の昼はヘルパーとデイサービス」「夜と休日は家族」「どうしても無理なときはショートステイを使う」など、最初から“外部の手”を含めた分担を前提にしておくと、心に余裕ができるため非常に重要なポイントとなります。

また、仕事や子育てを抱えている家族は、「フルタイムで介護に入る前提」で考えないことが重要です。

介護休業制度や時短勤務、在宅勤務など、職場で使える制度がないかどうかも、早めに確認しておきましょう。

実は、介護はかなりの重労働です。若い人でも潰れてしまうケースが多々あるので、自分を過信せずに施設入所を検討しましょう。

3.介護保険と要介護認定の流れをざっくり理解する

在宅介護を現実的に支えるのが「介護保険」になります。介護保険サービスを利用するには、お住まいの市区町村に「要介護認定」の申請をする必要があるうえ、さまざまな条件があるため、情報はしっかりと押さえておくことが大切です。

筆者は仕事上、ある程度介護保険や医療保険の知識があるので、家族や親族で介護が必要になった際にもアドバイスができるのですが、多くの場合、このあたりの知識がないため、意外と申請に手間取ることが多い印象です。

要介護認定の大まかな流れは次のようになります。

  • 市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに相談
  • 本人または家族が要介護認定を申請
  • 認定調査員が自宅などを訪問し、心身の状態を聞き取り調査
  • 主治医意見書や調査結果をもとに審査
  • 「要支援1〜2」「要介護1〜5」などの結果が通知
  • ケアマネジャーと一緒にケアプランを作成し、サービス利用開始

介護保険でできることは、ヘルパー(訪問介護)、デイサービス、ショートステイ、福祉用具レンタル、住宅改修など多岐にわたります。一方で、「家事代行」や「同居家族の分の食事作り」などは保険ではまかなえないため、注意が必要です。

どこに相談してよいか分からない場合は、まず「地域包括支援センター」が入口になります。ここは、介護・福祉の総合相談窓口として、介護保険の申請からサービスの紹介まで幅広く対応してくれます。

病院や老人保健施設から在宅に復帰する場合は、施設のケアマネジャーや相談員が対応してくれるので、しっかりと話し合うと良いでしょう。

ケアマネジャーとの話し合いの際に、家庭内の情報を隠してしまう方がいるのですが、できるだけ正確な情報を伝えて、将来的な不安や現在の悩みも相談した方が、後々のことを考えると正解と言えるでしょう。

OTとしての経験上、家庭の状況を隠すご家族様が多かった印象です。結果、適切な環境整備が十分に行えないケースがありました。

4.在宅介護にかかるお金と、使える公的支援

「在宅介護って、毎月どれくらいお金がかかるの?」という点は、多くの人にとって大きな不安の一つでしょう。

生命保険文化センターの調査によると、自宅での介護を始めるときの一時的な費用の平均は約74万円、月々の介護費用は約4.8万円というデータがあります。

ただし、これはあくまで平均値で、実際には家庭環境や対象となる人の身体状況や病名、介護度によって大きく変わるため注意が必要です。

実際に費用がかかるポイントは、以下のようになります。

  • 要介護度
  • サービス利用の量
  • 同居家族の状況
  • 住んでいる地域

上のようなポイントによって費用は大きく変わるため、「うちはもっと少なく済んでいる」「逆に、これ以上かかっている」というケースも珍しくありません。

あわせて確認しておきたい公的な支援制度

在宅介護に限らず、施設入所を選択する場合でも、公的な支援制度を把握しておくことは重要です。

介護保険以外にもさまざまな制度があるので、自分の家庭に適用できる制度があるかどうかを確認しておきましょう。

自分で調べても分からないときは、ケアマネジャーに支援制度について相談してみるのが良いかも!

  • 介護保険による自己負担(原則1〜3割)
  • 高額介護サービス費(自己負担が一定額を超えた場合の払い戻し)
  • 高額療養費制度や医療費控除などの医療費に関する支援

「今の収入・貯蓄で、どこまで在宅介護を続けられそうか」について、ざっくりで構わないので家計全体で考えておくと、後々の選択がしやすくなります。

5.転ばせない・疲れさせない「住環境」と介護用品

要介護者が自宅での生活を続けるうえで、落とし穴になりがちなのが「家の中の危険ポイント」です。

在宅復帰の際には、ケアマネジャーや介護職、リハビリ関係者が自宅を訪問して、家の中で問題となりやすいポイントを確認し、必要に応じて改修するケースが多くあります。段差や滑りやすい床、暗い廊下などは事前に対策されていることも多いのですが、意外な場所が転倒のきっかけになる場合があります。

高齢者の場合、自宅内での転倒でも簡単に骨折してしまうので、要注意ポイントと言えます。

在宅介護を始める前に、確認しておきたい場所をピックアップしてみました。もし専門職の自宅訪問がない場合や、あったとしてもご家族から見て危険と思う場所が見落とされていたら、改めて確認してみてください。

  • 玄関(上り框の段差、靴・スリッパの散乱)
  • 廊下やトイレへの動線(段差・敷物・コード類)
  • トイレ・浴室(手すりの有無、床の滑りやすさ)
  • ベッド周り(立ち上がりやすい高さか、足元は安全か)
  • カーペットの材質やたるみ具合
  • 家電のコードや延長コードの取り回し

要介護者の状態に応じて、介護ベッドや手すり、ポータブルトイレ、歩行器などの福祉用具を検討しましょう。これらの多くは介護保険でレンタルでき、住宅改修も条件を満たせば保険給付の対象です。

「まずはどこから手をつければいいか分からない」という場合は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員、リハビリ専門職に相談してみると良いでしょう。ビリ専門職(理学療法士・作業療法士)に相談すると、個々の身体状況と家の造りに合わせた提案をしてもらえます。

家のなかで危ないのは、玄関の段差とか階段みたいな「いかにも」ってところ?

目立つ危険ポイントは、みんな注意しているので意外と大丈夫…。僕の経験上、カーペットの段差や、コード、コタツ布団なんかが危険だね。

確かに!小さな段差に躓いて転倒して骨折、入院してくる患者さんが結構いた気がする。

6.在宅介護の「限界ライン」と、施設入居を考えるタイミング

筆者の経験上、在宅介護は、家族の愛情だけで続けられるものではないと断言できます。

実は、要介護度が上がり寝たきりの状態になると、身体介護としては楽になる一面もあります。しかし、体が元気で認知症を患っている場合には、夜間の徘徊や暴言・暴力などが起きるケースも珍しくなく、家族だけで支えるのは次第に難しくなってきます。

多くの人が、「頑張ればまだ大丈夫」や「施設に入れたら親族や周辺の人に何を言われるか分からない」と考えて、無理をしてしまうケースが少なくありません。

しかし、「頑張らなければ」と感じている時点で、すでに危険なサインが出ていますし、親族や近隣の人は口は出しても、実際に手助けやお金を出してくれるわけではありません。

実は、介護者が少しでも「つらい」「きつい」と感じているとき、要介護者もどこかで同じような感情を抱いていることが少なくありません。自分の家族を守るためにも、無理をせず、周囲に流されない介護の形を考えていきましょう。

厚生労働省が発表している情報に加え、筆者自身の経験や、作業療法士として見てきたケースから、在宅介護が限界に近づいているサインとして意識したいポイントを紹介します。

  • 介護者が適切なタイミングで十分な睡眠がとれていない
  • 体に不調が出ている(腰痛や肩こり、慢性的な不眠など)
  • 抑うつ状態になっている(理由もなく不安になる、気分が落ち込む、注意散漫になる、介護以外のことが考えられなくなる など)
  • 24時間見守りが必要で、家族が一人で外出できない
  • 転倒や誤嚥などの事故が増え、常に不安な状態が続いている

このようなサインは、介護者自身が自覚できていないことも多く、周囲の人も見落としがちです。

さらに、高齢者施設は満床・満室の状態になっていることも多く、サインに気付いてから慌てて探しても、すぐには入居できないことが多いという現実があります。

また、高齢者施設によって月額費用やサービス内容が大きく違うため、早めに見学や情報収集を始めておくことが大切です。

「施設に預けるのは親不孝だ」と感じる方もいるけど、その辺りはどう思う?

施設入居は決して「逃げ」にはなりません!家族のためにも、プロの力を借りるのも、立派な親孝行の一つですよ。

7.介護する家族の心と体を守るセルフケア・相談先

最後に、もっとも大切と言ってもいいのが、「介護する家族のケア」です。介護する人が倒れてしまえば、在宅介護は成り立ちません。

セルフケアとして、次のようなポイントを意識してみてください。

  • 1日数分でも「自分だけの時間」を確保する
  • 「しんどい」「つらい」と感じたら、早めに誰かに話す
  • 家族の中で、愚痴や不安を共有できる人を決めておく
  • ときどきデイサービスやショートステイを使って「休介護日」をつくる

相談できる窓口としては、地域包括支援センター、自治体の介護相談窓口、居宅介護支援事業所、家族会、かかりつけ医療機関の相談窓口などがあります。

「こんなことで相談していいのかな」と思うような小さな不安でも、抱え込まずに聞いてみてください。

まとめ|全部を一人で抱えない在宅介護の始め方

この記事では、在宅介護を始める前に知っておきたい7つのポイントを解説しました。

在宅介護は、「自宅で過ごしてほしい」という思いと、「家族の生活を守ること」のバランスの上に成り立ちます。

1)在宅・施設・併用という3つの選択肢を知る
2)家族と外部サービスを含めた協力体制を決める
3)介護保険と要介護認定の流れを押さえる
4)お金の目安と公的支援を理解する
5)転ばせない・疲れさせない住環境を整える
6)在宅介護の限界ラインと施設への切り替えを考えておく
7)介護する家族自身の心と体を守る

この7つを「頭の片隅」に置いておくだけでも、在宅介護のスタートはぐっとスムーズになります。

これからサイト内では、それぞれのポイントをさらに詳しく解説する記事(介護保険の使い方、住環境チェックリスト、福祉用具の選び方など)も増やしていきます。

気になるところから読んで、あなたのご家庭に合った在宅介護の形を一緒に探していきましょう。