在宅介護で重要になるのが「家の中の環境づくり」です。
筋力やバランス能力が少し落ちてきた段階でも、住まいの工夫次第で「転ばない」「疲れにくい」暮らしをサポートすることができます。
逆に、段差や敷物、暗い廊下などをそのままにしておくと、小さなつまずきから骨折や入院につながることも少なくありません。
この記事では、作業療法士の視点から、家の中で転倒が起きやすい場所と今すぐ見直したいポイントを整理し、「今日からできるプチ改善」までご紹介します。
自宅内の環境調整は必要か?
作業療法士の視点で語らせていただくと、「在宅介護においては自宅内の環境調整がほぼ必須と言ってよいほど重要です」。
健康なときには気づきにくいのですが、病気や怪我をして自由に体を動かせなくなると、自宅内のちょっとしたポイントが気になることがあると思います。
高齢の要介護者にとっては、健康な人にとっての「少し気になる」程度のことが、大きな障害や思わぬトラップになることもあるのです。
さらに、要介護になっている時点で「骨粗しょう症」や「認知症」を患っているケースも多く、皮膚も弱くなっていることが少なくありません。
このため、室内での何気ない転倒が、骨折や大量出血につながってしまうことも珍しくないのです。
転倒が起きやすい場所ベスト5

家の中で転びやすい場所として、いくつかの「定番スポット」があります。代表的なものは、玄関や廊下、トイレ、浴室・脱衣所、ベッド周りでしょう。
基本的に日常生活で多く使用する場所や負担が大きくなる場所が危険なポイントとなります。
各場所ごとに危険ポイントと注意点をまとめて簡単に解説します。
玄関:大きな段差と不安定な足元に要注意
玄関は、家の中でも段差が大きく、つまずきやすい場所の代表です。
特に、古い日本家屋では、上がり框が高く設計されていることが多く、高齢者が上がったり下りたりするたびにバランスを崩しやすくなります。
また、上がり框が高過ぎると不慣れな介護者は、どのように手を出していいか分からずトラブルのもとになる可能性が高くなるのです。
さらに、上がり框をクリアしても、玄関に靴が散らばっていたり、廊下にスリッパが散らばっていると足を取られやすく転倒リスクを高めます。
基本的に玄関は整理整頓を行い、不要な靴やスリッパは片付けておきましょう。特に雨や雪の日には先に帰宅した人が水気をしっかり拭き取り、滑ることが無いようにして下さい。
玄関には、必要に応じて踏み台や手すりを設置することが出来ます。「上り下りしやすい高さ」と「足元の安定」を意識して整えていきましょう。
廊下:夜間の移動と暗さが重なる危険ゾーン
廊下は、トイレや寝室、リビングなどをつなぐ通路で、一日に何度も通る場所です。
日中は問題なく歩けていても、夜間のトイレ移動では暗さによって足元が見えにくくなるうえ、眠気が重なると注意散漫や錯覚が起こりことがあります。
また、床に置かれた小物や廊下と部屋の間の小さな段差や敷物、電気コードなどにつまづき転倒することも少なくなりません。
在宅での介護をはじめる際には、廊下には極力物を置かず、足元を照らすフットライトや人感センサー付きライトを設置して、夜でも安心して歩ける通路をつくることが大切です。
廊下にも必要に応じて手すりを設置することができるため、不安を感じる場合はケアマネに相談してみましょう。
トイレ:下衣の着脱と狭さに要注意
トイレは在宅介護の要注意ポイントのひとつと言えます。
高齢になると、尿意を感じるタイミングが遅くなり、我慢できる時間も短くなります。それに加えて移動速度も低下しているため、移動中だけでなく、トイレ内で下衣を着脱するときにも危険が生じる可能性があります。
「間に合わないかも」と焦って下衣を脱ごうとして、バランスを崩しそのまま転倒するケースは起こりがちです。さらに、排泄が終わって下衣を装着する際にも、バランスを崩す危険が発生するため注意が必要です。
トイレが和式の場合は、立ち座りが大変なだけでなく、排泄時の姿勢保持と排泄自体にも大きな力を要するので危険度が高くなります。
在宅介護を検討するのであれば、和式から洋式トイレへの改修は必須と言えるでしょう。
洋式トイレに改修しても、便座の高さが低すぎると立ち上がりに力が必要で、ふらつきやすくなります。
必要に応じて、手すりの設置や便座の高さ調整、滑りにくい床材の使用などで、ゆっくり落ち着いて立ち座りできる環境を整えておきましょう。
浴室・脱衣所:濡れた床が転倒を招きやすい場所
浴室や脱衣所は、床が濡れやすく非常に滑りやすい場所です。
浴槽の出入りで片脚立ちになる場面も多く、バランスを崩しやすい条件がそろっています。
また、冬場は脱衣所と浴室の温度差が大きく、急な血圧変動による立ちくらみも起こりやすくなります。
滑り止めマットの使用や、浴槽の出入りに使える手すり・バスボードの導入、脱衣所の暖房などで、「足元の安全」と「温度差対策」を意識した環境づくりが重要です。
ベッド周り:寝起きのふらつきと足元の物に注意
高齢者に限らず、介護が必要になった人は、ベッドで過ごす時間が増加しがちです。
そのため、ベッドの上や周辺は物が集まりやすく、散らかりやすいエリアになります。
作業療法士としては、日中は活動的に過ごしてもらいたいのですが、退院後や施設からの退所後はどうしてもベッドを中心とした日常生活を設計するケースが多くなってしまう印象です。
生活の中心部分となるため、思いもよらぬトラブルが発生することが多く、環境調整時にはかなり気を使うポイントと言えます。
特に、寝起きは血圧や意識が安定しておらず、体も十分に目覚めていないため、急に起き上がって立ち上がるとふらつきやすくなります。
ベッドで横になっている時間が長い人の場合は、急に立ち上がると起立性低血圧や貧血を起こし、転倒する危険も考えられるため、より一層の注意が必要です。
さらに、ベッドの高さが低すぎたり高すぎたりしても、立ち上がりに余計な力が必要になり、転倒のリスクが高まります。
ベッドサイドには物を置き過ぎず、手をつく安定した場所を確保し、必要に応じてベッド用手すりやナイトライトを活用して、安全な寝起き動作をサポートしましょう。
今すぐ見直したいNGポイント

転倒リスクを高めるポイントにはいくつか共通のパターンがあります。
たとえば、段差の手前にふかふかのマットや小さなラグを敷いている、電気コードや延長タップが床を横切っている、スリッパが脱げやすくサイズも合っていない、といったものです。
また、玄関や廊下に荷物を置いて通路が狭くなっていると、足の運びが小さくなり、つまずきやすくなります。
まずは「つまずきそうな物を床からどける」「必要のないマットを減らす」「スリッパをやめて滑りにくい室内履きにする」といった調整から始めてみましょう。
また、そもそも介護をするためには、そこそこの広さが必要になるため、自宅内の整理整頓の徹底は必須だと言えるでしょう。
すぐできるプチ改善
大がかりな工事をしなくても、今日からできる環境調整はたくさんあります。
たとえば、夜間にトイレへ行く動線にフットライトやセンサーライトを設置するだけでも、足元の安心感がぐっと高まります。
滑りやすい場所には、薄手でズレにくい滑り止めマットを使い、玄関の上がり框には踏み台を置いて段差をゆるやかにするといった工夫も効果的です。
また、よくつかまる家具(タンスや椅子など)を“仮の手すり”として頼らなくてすむよう、動線上に物を置きすぎないことも大切です。
「転ばせない環境=歩きやすい一本の道をつくること」とイメージして、通り道をスッキリさせていきましょう。
手すり・スロープ・段差解消など福祉用具を使う目安

介護が必要な人の筋力低下やバランスの不安が目立ってきたら、手すりやスロープ、段差解消台などの福祉用具も検討したいところです。
目安としては、「立ち上がるときに家具に手をついてしまう」「階段や段差でフラつくことが増えた」「浴室やトイレでの転倒が心配で家族が付き添っている」といったサインが出てきたタイミングです。
介護保険を利用すれば、手すりの取り付けや段差解消などの住宅改修に補助が出る場合もありますし、玄関台や手すり、杖などはレンタルや購入で負担を抑えられることもあります。
ただし、自己判断であれこれ買う前に、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員、リハビリ専門職に一度相談して、ご本人の体と家の造りに合った用具を選ぶことが大切です。
まとめ
この記事では、「家の中の環境づくり」について作業療法士の視点から解説しました。
介護が必要な状況になると、それまで気にならなかった小さな段差やコード類が思わぬ障害になることがあります。
高齢者の転倒は、骨折や出血に繋がり、そのまま入院になることも珍しくありません。本人が健康な頃から少しずつ自宅内の危険ポイントをなくしておく方がよいでしょう。
また、ご家族だけで工夫しても不安が残る場合や、何度かヒヤッとする場面が続く場合は、「そろそろプロに相談した方がいいサイン」です。
たとえば、家の中で何度か転倒してしまった、立ち上がりのたびにフラついてしまう、夜間のトイレ移動に必ず付き添わないと危険に感じる、といった状況が続くようなら専門家に相談してみて下さい。
ケアマネジャーや地域包括支援センター、訪問リハビリのセラピストなどに環境面について相談すれば、身体機能や能力に合わせて具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
「転んでから考える」のでは手遅れになる可能性もあるので、「ヒヤリとしたら一度立ち止まる」くらいの気持ちで、早め早めに専門職の力を借りていきましょう。