在宅介護をしているご家庭の声として良く聞かれるのが、「最近足腰が弱くなった気がする」「寝てばかりなので動けなくなるのでは…」といった声です。

しかし、心配ごとはあるものの【リハビリ】という言葉が強すぎるのか、「きつい筋トレ」「専門家がつきっきりで行うもの」というイメージを持つ人が多く、自宅での運動への取り組みが今ひとつのようです。

在宅介護においては、実際には、難しい運動を頑張るよりも、「日常生活の中で体を動かす場面を少し増やす」ことが、寝たきり予防のポイントになります。

この記事では、作業療法士として経験した在宅介護ならではの運動に関する悩みを紹介し、運動を確保するコツやリハビリについて解説します。

自宅でのリハビリで悩んでいる場合は、是非参考にしてみて下さい。

身体機能維持のために運動は必要?

結論から述べると、「在宅・施設を問わず、身体機能を維持するためには最低限の運動が絶対に必要」です。

理由としては、寝たきりの状態が続くと著しく筋力が低下していくからです。

では、「寝たきりの状態が続くと、どれくらい筋力が落ちてしまうのか?」という点については、多少数字のばらつきはあるものの、研究によって結果が示されています。

システマティックレビューでは、安静状態開始から最初の5日間に、下肢の筋力が1日あたり約3%ずつ低下し、2週間で合計13%程度まで落ちると報告されているのです。

また、病院の臨床現場向け資料では、「ベッド上で過ごす患者は1日あたり1〜5%の筋力を失う」と解説されており、特に高齢者では筋力低下のペースが速いことが分かっています。

さらに、不動化の最初の1週間で最大40%の筋力が失われうるという報告や、10日間のベッドレストで膝の伸展筋力が約13%低下したという研究もあります。

もちろん個人差はありますが、「何もしない臥床」が続くと、1日で数%、1週間で1〜2割、1か月では状況によって2〜3割以上の筋力を失う可能性があるというイメージを持っておくと、「今日できる小さなリハビリ」の大切さが把握しやすくなるのではないでしょうか。

特別な運動は必要?

身体機能を維持するために、特別な運動は必要ありません。

病院や高齢者施設では、理学療法士や作業療法士が1人に付きっきりで運動をしている場面を目撃するため、リハビリと言えば「特別な運動」というイメージが定着しているのではないでしょうか?

しかし、これは身体機能を短期間で向上させることを目的としているために行われています。

実際には、現状の機能や能力を維持するためには、これまで通りの日常生活動作を行い、そこに少しの運動を加えるだけでも十分効果が期待できるのです。

リハビリ=きつい運動ではない

前述しましたが、「リハビリだから頑張って歩かないと」「スクワットを何十回もしないと効果がない」という考えは、イメージが先行した結果の思い込みです。

このような感覚で運動に取り組むと、ご本人も家族もすぐに疲れてしまい、結局長続きしない結果になってしまいます。

リハビリ本来の目的は、「その人が、できるだけ自分らしく生活を続けられるようにすること」です。

そのため、ハードな運動に取り組む必要はありません。ベッド上で体を少し動かす、座っている時間を増やす、トイレまで歩いて行く回数を確保する…。

このような「生活の中の小さな動き」を積み重ねることが、結果的に寝たきり予防につながります。

「頑張るリハビリ」ではなく、「暮らしの中で自然に続けられるリハビリ」を目指していきましょう。

はじめは「座る時間」を増やすところから

寝たきりを防ぐうえで、大きな鍵になるのが「座る時間」です。

ずっと横になっていると、筋力や心肺機能が落ちやすいだけでなく、会話の機会も減ってしまいます。

まずは、朝と昼と夕方など、1日の中で「ベッドから起きて椅子やベッドのふちに座る時間」を少しずつ確保してみてください。

最初は5~10分程度でも大丈夫です。体調が良いのであれば、20分、30分と少しずつ座る時間を伸ばしていきしょう。

座るときは、足裏が床につく高さにするか、足台を使って「ドシッと安定して座れる姿勢」をつくることがポイントです。

ただ、じっと座っているだけでは、「訓練感」が強く出てしまい、継続が難しくなります。

対策として、テレビを見ながら、家族と話しながらなど、楽しい時間とセットにすると、自然と座る時間を継続しやすくなるためおすすめです。

ベッド上でかるい運動を実施

体を起こすことがつらい場合は、ベッド上でできる簡単な運動から始めてみてください。

病院や施設でお勧めされる代表的なものは、足首を上下・ぐるぐる回す運動、膝の曲げ伸ばし、股関節をゆっくり曲げる・伸ばすといった動きです。

手の場合は、指をグーパーする、手首を回す、肘を曲げ伸ばす、肩をすくめる・戻すなどの運動を痛みのない範囲で行いましょう。

もし、余裕があるようなら「お尻上げ」も効果的な運動といえます。

ベッド上で横になり、両方の足裏にしっかりと力を入れてゆっくりとお尻を持ち上げます。ポイントは、「息を止めないこと」「勢いをつけずゆっくり動かすこと」「痛みが出たらそこでやめること」です。

回数にこだわるより、「朝と夕方に一通り動かす」といった習慣づくりを意識しましょう。

もし人工関節や骨折の既往などがあれば、自己判断で運動を行わず、主治医やリハビリスタッフにやってよい範囲を事前に確認しておくと安心です。

立ち上がり練習のコツと介助のポイント

寝たきりを予防するために、取り組みたいのが「自分で立ち上がる力」をできるだけ保つことです。

立ち上がりの基本は、①座面の前の方に腰をずらす、②足を少し引いて足裏をしっかり床につける、③上体を前に倒しておじぎをするようにして立ち上がる、の3ステップで構成されます。

介助する家族は、正面から引っ張り上げるのではなく、横か斜め前に立ち、片手で骨盤あたりを軽く支えましょう。

もう片方の手で肩や胸のあたりを補助するようにすると、ご本人の力を引き出しやすくなります。

「せーの」の合図で一緒に動き出すタイミングをそろえることも大切です。

毎回すべて介助するのではなく、「ご本人ができる部分は自分でやってもらい、足りないところだけ手を貸す」イメージで関わりましょう。

無理のない歩行・散歩で「使える脚」を保つ

立ち上がりが安定してきたら、次のステップとして「歩く機会」を少しずつ増やしていきましょう。

いきなり長距離を歩く必要はありませんが、まずは家の中でトイレや洗面所まで自分の足で歩く回数を確保することが大切です。

慣れてきたら、家の周りを数分だけ一緒に散歩する、近所の公園まで行ってベンチで一息つく、といった短時間の外出から始めてみてください。

その日の体調や天候によって距離や時間を調整し、「疲れすぎる前に切り上げる」ことが続けるコツです。

転倒が心配な場合は、杖やシルバーカーなどの補助具を活用し、段差や坂道が少ないコースを選ぶと安心です。

歩くことは脚の筋力だけでなく、気分転換や食欲アップにもつながるので、無理のない範囲で生活の一部に取り入れていきましょう。

まとめ

本記事では、作業療法士の視点から、在宅介護ならではの運動に関する悩みと、運動を確保するコツや簡単に実施できるリハビリについて解説しました。

寝たきりを防ぐために大切なのは、「特別な運動」よりも「いつもの生活に少しずつ動きを足していく」という発想です。

きついリハビリを頑張るのではなく、まずは座る時間を増やし、ベッド上で関節をゆっくり動かし、自分の力で立ち上がる練習を続けていきましょう。

そして、余裕が出てきたら短い歩行や散歩を取り入れ、日常の中で体を使う場面を増やしていきます。

その際、家族の腰を痛めるような無理な介助は避け、本人ができる部分はできるだけ自分で行ってもらうことがポイントです。

「昨日より少しできた」「今日はここまででOK」と、小さな前進を一緒に喜びながら、暮らしの中にゆるやかなリハビリを溶け込ませていきましょう。