在宅介護を行うにあたり、福祉用具選びで頭を痛めていませんか?

病院や施設からの在宅復帰であれば、ケアマネやリハビリ関連職が連携して適切な福祉用具を提案してくれますが、独自に在宅介護を始める場合はそうはいきません。

介護・福祉業界の発展は目覚ましいもので、作業療法士である筆者でも、少し油断すると福祉用具の進歩から置いていかれそうになるほど、膨大な種類が存在します。

特に、初めて介護に関わる場合、介護ベッドや車いす、手すりなど、名前は聞いたことがあっても、実際に見たことも触ったこともないケースがほとんどです。

そんな状態で、どの福祉用具を選べばいいのか、買うべきなのかレンタルでも大丈夫なのか…分かりにくいと思います。

必要に迫られて、とりあえず購入してみたものの、サイズが合わなかったり、目的に適していないということも少なくありません。

この記事では、作業療法士の視点から、在宅介護でまず押さえておきたい「ベッド・車いす・手すり」の基本と、福祉用具レンタルの考え方、相談時のポイントをわかりやすく解説します。

福祉用具は購入すべき?レンタルで大丈夫?

結論から言うと、「福祉用具の購入かレンタルかはケースバイケースであり、絶対的な答えはありません」。

ただ、作業療法士として在宅介護に関わってきた経験からアドバイスするとしたら、慌てて自費で福祉用具を購入する必要はないということです。

筆者はOTとして、在宅介護を行っているご家庭を訪問して、要介護者の身体機能・能力の確認と、ご自宅内の環境を確認することがあります。

その際、ご家族様がホームセンターでいろいろな福祉用具を購入しているのを目にすることがあります。

頻繁に目にするのは、杖やシルバーカー(押し車)のような歩行補助具や、円座やクッションなどの床ずれ防止用具です。

多くの場合、杖やシルバーカーは要介護者の体格や歩行能力に適していなかったり、クッション類はそもそも不要だったりと、無駄になってしまうことも少なくありません。

要介護者を心配する気持ちは理解できるのですが、福祉用具も安くはありません。

できるだけ無駄な出費をなくすためにも、慌てて福祉用具を購入するのはやめた方が良いでしょう。

福祉用具レンタルと購入の違い

介護ベッドや車いすなどの福祉用具には、「レンタル」と「購入」の2つのパターンがあります。

介護保険を利用する場合、多くの用具はレンタルで使うのが基本で、要介護度に応じて自己負担が1〜3割になります。

レンタルのメリットは、体の状態や生活スタイルの変化に合わせて、用具を交換できる点です。

一方、杖やポータブルトイレ、一部の手すりなどは「特定福祉用具販売」といって、購入が前提のものもあります。

一般的にトイレや浴室に関する道具は購入になるのですが、レンタルできるのか購入しなければならないのか分からずに迷うことがあるかと思います。

そんなときは、ざっくりと「直接肌が触れるものや衛生面が懸念される道具は、基本的に購入」と覚えておくと良いでしょう。

福祉用具は「長く使うなら買ったほうが得」と考えることがあるかと思いますが、高齢者の身体機能は、想像よりも大きく変化することがあります。

まずは、ケアマネやリハビリ職から意見をもらい、レンタルで試しながら必要なものを見極め、どうしても手元に置きたいものだけ購入する、という流れがおすすめです。

福祉用具は購入すべき?レンタルで大丈夫?

先の項で、慌てて自費購入しない方が良い理由をご説明しました。

ここでは、実際に「レンタル」と「購入」をどう使い分ければ良いのかを整理していきます。

基本的には「レンタル」優先で検討

在宅介護で使う主要な福祉用具(車いす、介護ベッド、マットレス、スロープ、歩行器など)は、介護保険を利用してレンタル(福祉用具貸与)が可能です。

介護保険が適用されると、利用者負担は原則1割(所得により2~3割)になります。

レンタルを検討するべき理由
  • 身体状況の変化に対応しやすい
    要介護者の身体能力や介護度は時間とともに変化します。レンタルならば、状態の変化に合わせて、サイズや機能が違う用具に交換してもらうことができます。購入品の買い替えのような大きな出費を避けられます。
  • 初期費用を抑えられる
    車いすや介護ベッドなどは本体価格が高額ですが、介護保険レンタルなら月額料金の1~3割負担で利用できます。まとまった購入費を用意する必要がないため、在宅介護のスタート時の負担が軽くなります。
  • プロが選定・調整してくれる
    福祉用具専門相談員やケアマネジャーが、身体状況・住環境を踏まえて適切な用具を提案し、設置や高さ調整、使い方の説明まで行ってくれます。「合わないものを買ってしまった」という失敗を避けやすいのも、レンタルの大きなメリットです。

介護保険では「購入」が原則の福祉用具もある

介護保険制度では、他人が使った物を共有しにくい性質の用具や、使用によって形や品質が変化しレンタルに向かない用具は、「特定福祉用具販売」として購入が原則となっています。

代表的な対象品目(特定福祉用具販売)は、次の5つです。

特定福祉用具販売
  • 腰掛便座(和式を洋式に変える便座・ポータブルトイレ・高さ調整便座 など)
  • 自動排泄処理装置の交換可能部品(レシーバー・チューブ・タンクなど、利用者や家族が交換できる部分)
  • 入浴補助用具(入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、浴室/浴槽内すのこ、入浴用介助ベルトなど)
  • 簡易浴槽(空気式・折りたたみ式など、工事を伴わずに設置できる浴槽)
  • 移動用リフトのつり具部分(スリングシートなど、体に直接触れる部分)

これらについては、介護保険の「購入費支給(年間10万円まで)」の対象となり、原則として年間10万円(4月〜翌3月)までの購入費の9割(または8割・7割)が介護保険から給付され、残り1~3割が自己負担となります。

支払い方法は自治体によって、「いったん全額を支払って、後から9~7割が振り込まれる償還払い」か、「初めから自己負担分(1~3割)のみ支払えばよい受領委任払い」の2通りがあり、どちらになるかは事業所・自治体の取り扱いによって異なります。

2024年から「レンタルか購入か選べる」用具も増えた

2024年度の介護保険改正で、次の4種類の福祉用具については、レンタル(貸与)だけでなく購入も選べる「選択制」が導入されました。

  • 固定用スロープ(小さな段差解消用で、頻繁に持ち運ばないもの)
  • 歩行器(脚部がゴム脚の固定式・交互式。車輪付きの「歩行車」は除く)
  • 単点杖(松葉杖を除く)
  • 多点杖

これらは比較的価格が安く、構造もシンプルで、レンタルより購入の方がトータルで安くなる場合もあるため、「利用期間」「価格」を踏まえて、福祉用具専門相談員やケアマネジャーと相談して決める形になっています。

「購入」を検討した方がよい主なケース

介護保険の給付対象外の用具や、あえて自費での購入を検討した方が良いケースもあります。先ほどの内容を踏まえて、「購入を検討したいパターン」を表にまとめました。

ケース具体例ポイント・注意点
介護保険の対象外の便利グッズおしゃれな杖、特殊な形の食事用スプーン・食器、クッション、滑り止めシートなど介護保険の対象外なので全額自費になります。とはいえ価格が比較的安い物も多く、「気に入った物を長く使いたい」場合は購入が一般的です。
比較的安価な用具を**長期(数年以上)**使う見込みがある固定用スロープ、歩行器、単点杖・多点杖など、2024年から選択制になった4品目月額レンタル料×使用月数と、購入価格を比較すると、長期使用では購入の方が安くなる場合があります。価格や状態変化を踏まえ、福祉用具専門相談員に「レンタル vs 購入」の試算をしてもらうと安心です。
衛生面や心理的に「共有に抵抗がある」用具排泄・入浴に使う用具全般、リフトのつり具部分など(特定福祉用具販売の対象品目)他人が使った物を使うことに抵抗がある場合、介護保険の特定福祉用具販売で新品を購入する選択肢があります。年間10万円までの範囲で、自己負担1~3割で購入できます。
ホームセンター等で購入できる、ごく安価な用具小さなすべり止めマット、転倒防止用の家具固定具、簡易的な段差解消用マットなどそもそも介護保険の対象外だったり、レンタル品が用意されていないことも多い分野です。数千円程度で購入できる物であれば、自費購入で十分なケースがほとんどです。価格に見合う安全性がある製品かどうかだけ確認しましょう。

検討されやすい用具ベスト3(ベッド・車いす・手すり)

在宅介護で最初に検討されやすい福祉用具は、「介護ベッド」「車いす」「手すり」の3つです。

介護ベッドは、ベッドの高さ調整や背上げ・脚上げ機能によって、本人の起き上がり動作や、介護者の腰の負担軽減に大きく役立ちます。

車いすは、家の中での移動や外出の機会を広げてくれる道具ですが、家の幅や段差に合ったサイズ選びが重要です。

手すりは、トイレや玄関、廊下、ベッド周りなど、「よくつかまる場所」に適切に設置することで、転倒予防に直結します。

この3つは単品で考えるのではなく、「家の動線」と「介護の流れ」の中でセットで考えると選びやすくなります。

よくある「失敗パターン」(サイズ・段差・家の作りに合わないなど)

福祉用具選びでよくある失敗として、「サイズや家の構造と合っていない」というケースがあります。

たとえば、幅の広い車いすを選んだ結果、廊下やトイレの入口を通れなかったり、介護ベッドを入れたら部屋が窮屈になり、介助スペースがなくなってしまったりといった問題です。

また、玄関の段差にスロープを置いてみたものの、傾斜がきつくて押すのが大変だった…ということもよくあります。

カタログだけを見て決めるのではなく、メジャーで通路の幅や段差の高さを測る、実際に試乗・試用してみる、といったひと手間が、失敗を防ぐポイントです。

「家に置いたとき」をイメージして、サイズ感を確認しましょう。

OT目線で見る「ここだけは押さえたいチェックポイント」

作業療法士の視点で、福祉用具を選ぶときに特に押さえておきたいのは、「使用者の生活」と「家のつくり」をセットで見ることです。

たとえば介護ベッドなら、使用者本人がどの程度自分で寝返り・起き上がりできるのか、介護者はどの位置から介助しているのかによって、適切な高さや柵の形が変わります。

また、車いすであれば、完全介助で移動するのか、使用者が自走することができるのか、使用する場所は室内と屋外のどちらがメインなのか、という想定が重要です。

手すりについても、「いつもどこでふらついているか」「どの高さに手が伸びているか」を観察することで、最適な設置位置が見えてきます。

「とりあえず標準のものを」購入して使用するのではなく、「使用者の身体機能や生活動作に合わせる」という視点を大事にしてください。

ケアマネ・福祉用具専門相談員に相談するときの質問リスト

福祉用具選びは、家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談するのが基本です。

その際、「何を聞けばいいか分からない」ときのために、質問リストを用意しておくと話がスムーズに進みます。

たとえば、以下のようなことを質問してみましょう。

  • 「今の体の状態や生活スタイルから見て、優先して準備した方がいい用具はどれか」
  • 「介護保険でレンタルできるものと、自費になるものの違いは何か」
  • 「家の間取りに合わせたサイズや配置のポイントはどこか」
  • 「実際に試して合わなかった場合、交換はできるのか」
  • 「将来状態が変わったとき、どんな用具に変更することになりそうか」

事前に質問をメモしておき、遠慮せずに相談することで、「使える福祉用具」に出会える確率がぐっと高まります。

まとめ

この記事では、「はじめての福祉用具選び」についてOTの視点で解説しました。

福祉用具選びは、「とりあえずベッドと車いすを用意すれば安心」というものではなく、その人の身体の状態と、家のつくり・生活スタイルに合っているかどうかが何より大切です。

まずはレンタルと購入の違いを理解し、在宅介護で使われやすいベッド・車いす・手すりを軸に、必要性や優先度を整理していきましょう。

サイズや段差が合わない用具を選んでしまうと、かえって動きにくくなったり、介護する側・される側の負担が増えてしまうこともあります。

迷ったときはひとりで決めようとせず、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に「今の暮らしの様子」や「困っている場面」を具体的に伝えて、一緒に考えてもらうことが大切です。

福祉用具は、上手に選べば在宅生活をぐっと楽にしてくれる強い味方になります。

焦らずに試しながら、「この人の暮らしに本当に合う一台・一本」を見つけていきましょう。