高齢者の歩行の介助、転倒させるのが怖くて過保護になりすぎていませんか?

在宅介護に限らず、施設で働くプロの介護士さんでも、「転ばせたくない」という思いから、つい自分が全力で支えてしまいがちです。

その気持ちは理解できますし、筆者自身、気を抜くと過剰な介護になりがちです。

しかし、歩行介助の問題は、意外なところに潜んでいるのです。

この記事では、作業療法士として経験した「間違った歩行介助」や「実は危険な歩行介助」の方法と、正しい歩行介助の情報を解説していきます。

正しい歩行介助の理解は必要か?

結論から述べると、「正しい歩行介助の方法を理解することは、転倒予防のために絶対に必要です。」

介護をはじめたばかりの頃は、正しい方法を学び実践しているのですが、だんだんと介護に慣れてくると、自分なりの方法や間違った方法で介護を行いがちです。

筆者自身も、どことなく“なぁなぁ”で歩行介助をしてしまうこともありますし、施設の介護士さんが明らかに間違った方法で介助をしている場面を見かけることもあります。

しかし、間違いとされる介助方法にはそれなりの理由があって「間違い」とされているため、その方法を続けていると、あるタイミングで転倒してしまう可能性があるのです。

介護中の事故を予防するためにも、正しい歩行介助方法をしっかりと理解しておきましょう。

まず押さえたい「歩行介助の基本の考え方」

歩行介助の目的は、「とにかく倒さないこと」だけではありません。

大切なのは、本人の「自分で立つ・自分で歩く力をできるだけ残すこと」と「転倒を予防すること」です。

しかし、介助する側が頑張りすぎると、どうしても「引っ張る」「持ち上げる」「固定する」といった動きが増えてしまいます。

この状態では、本人が自分で重心を移動させる練習にならず、腕や肩をがっちりつかまれることでバランス調整も難しくなってしまうので注意が必要です。

このような状態は、介護に慣れていないご家族に著明に見られますが、一部の介護職にも見られます。

歩行介助の基本は「介助者が主役」ではなく、「本人の動きを引き出し、危ないときだけ支える」ことです。

この視点を押さえたうえで、NG介助を把握し、正しい介助方法を理解していきましょう。

在宅介護でやりがちな危険な歩行介助3選

NG① 前方から両手を引いて歩かせる「手引き歩行」

廊下や病院からの帰り道で、介助者が前に立ち、利用者さんの両手を握って引っ張る形の歩行をよく見かけます。

一見、しっかり支えているように見えますが、実は危険の多い方法です。

両腕を前に固定されることで肩が上がり、腕を振ることができません。その結果、重心が後ろに残りやすく、後方への転倒や尻もちを誘発します。

また、「誰かに引いてもらうのが歩行」という体験が続くと、手すりや杖を使う場面でも「引っ張ってもらわないと歩けない」状態になりがちです。

介助者自身も中腰で体をひねった姿勢になりやすく、腰痛のリスクが高まりますし、何より後方の視界を確保できていないので非常に危険です。

介助者が転倒した際に、要介護者も巻き込まれて一緒に転倒してしまう点も、非常に危険なポイントと言えるでしょう。

NG② 杖と反対側の手を強く握る「手つなぎ歩行」

次に多いのが、杖を持っていない側の手をしっかり握り、半ば引っ張るように歩かせる「手つなぎ歩行」です。

ご家族としては「倒れてほしくない」「不安を和らげたい」という気持ちから、つい強く握ってしまうことが多いです。

しかしこの方法では、杖にうまく体重が乗らず、上半身がねじれた状態で歩くため、ふらつきやすくなります。

また、歩行時の重心移動がスムーズに行われなくなることも問題で、不自然な歩行状態になることで転倒を誘発してしまいます。

さらに、万が一転倒した際に、体を支える術がないので、そのまま転倒するに任せるしかなくなるのも問題です。

特に片麻痺の方やパーキンソン病の方、認知症で状況理解が難しい方では、「急に引かれる」「急に止められる」といった刺激がきっかけで転倒につながることがあります。

優しいつもりの手つなぎが、かえってリスクを高めてしまう点に注意が必要です。

NG③ 介助者の肩につかまって歩く「肩つかまり歩行」

3つめは、利用者さんが介助者の後ろから両手で肩につかまり、介助者の歩みに引っ張られるように歩く「肩つかまり歩行」です。

病院や施設の廊下、在宅でもトイレ誘導などで、まれに見かけることがある介助です。

この方法では、利用者さんの視界が介助者の背中でさえぎられ、足元や段差への注意が向けにくくなります。

また、介助者が利用者さんの状態を確認できないことや、膝折れが起きたときに支える方法がないことも、転倒につながる危険があります。

介助者側も前傾姿勢になりやすく、万一バランスを崩したときには、2人まとめて転倒してしまう危険があります。

3つのNG介助に共通する「危険の理由」

危険な介助方法には、いくつかの共通した問題点があります。

共通の問題点として、その場では「倒れなかった」ように見えても、長期的には本人の歩行能力を下げてしまうことが挙げられます。

そのときは転倒しなくても、結果として転倒リスクを高める介助になってしまいます。

安全のためにやっているつもりが、逆効果になっていないか。一度立ち止まって見直してみることが大切です。

NG介助が危険な理由
  • 手や肩を強くつかまれることで、上半身が固定され、バランス調整ができない
  • 介助者に引っ張られる形になり、自分で重心を前に移す経験が減る
  • 「支えてもらう前提」での歩行が習慣になり、介助なしではかえって不安定になる
  • 介助者側も中腰や前かがみ姿勢になり、腰痛・肩こりなどの負担が大きい

代わりにどうする?安全な歩行介助の基本パターン

基本の立ち位置は「側方」か「斜め後方」

安全な歩行介助の基本は、本人の横、もしくは斜め後ろに立つことです。

杖を使っている場合は、杖を持っていない側、つまり不安定な側に立ち、腰や肘にそっと手を添えます。

このとき、ぐいっと引っ張るのではなく、「もしふらついたら支えられる位置」にいるイメージが大切です。段差や方向転換のときだけ一時的に体を近づけ、終わったらまた側方に戻ります。

介助者の歩幅は本人より少し小さめを意識し、前に出すぎて引っ張る形にならないよう気をつけましょう。

声かけとペース配分で転倒リスクを下げる

歩行介助では、手で支えるよりも「声かけ」でサポートする場面が多くなります。

声かけを行うことで、本人が足元に注意を向けやすくなります。また、急かさないことも重要です。

トイレや移動で時間が気になっても、介助者がペースを上げてしまうと、つまずきや転倒が起こりやすくなります。

「ゆっくりで大丈夫ですよ」と言葉で伝え、本人の歩調に合わせて一緒に歩くことが、安全な歩行介助の大前提です。

声掛けの例
  • 「次、右足いきましょう」
  • 「ここに少し段差がありますよ」
  • 「いったん止まって、姿勢を整えましょう」

福祉用具・住環境の見直しもセットで考える

「手をつながないと不安」「肩につかまらないと歩けない」と感じる場合、介助方法だけでなく、福祉用具や住環境が今の状態に合っていない可能性もあります。

廊下が暗い、手すりが足りない、杖では不安定になってきたなど、背景にある要因を一度整理してみましょう。

場合によっては、シルバーカーや歩行器への変更、手すりの増設、段差解消などの環境調整が有効です。

ケアマネジャーや理学療法士・作業療法士、福祉用具専門相談員に相談し、「手引きに頼らなくても歩ける環境」を一緒に整えていくことが大切です。

Q&A:こんなときどうする?

本人が「手をつないで歩きたい」と強く希望する場合は?

一方の腕を利用者さんの腋下から通し、上腕を軽く支えます。もう一方の手は利用者さんの手のひらにそっと添えましょう。力を入れ過ぎず、腕の動きや向きをやさしくガイドする程度にとどめてください。

トイレに急いでいるとき、どうしても引っ張ってしまいます。

「早めに声をかけておく」ことが大切です。早めのトイレ誘導やポータブルトイレの活用で「ギリギリにならない仕組み」を作ることで、落ち着いて歩ける時間的余裕が生まれます。

一人で歩かせるのが怖くて、どうしても強めに支えてしまいます。

転倒歴や最近のふらつきの回数をメモし、ケアマネやリハ職に相談して、歩行レベルの評価や福祉用具の見直しをしてもらうと安心につながります。

専門職に相談した方がいいサイン

「最近、つまずきや転倒が増えてきた」「歩ける距離が短くなり、『すぐ疲れる』と訴える」「段差や方向転換のときにフラフラする」といった変化が見られたときは要注意です。こういった状態は、体力やバランス能力が変化してきたサインかもしれません。

主治医や理学療法士・作業療法士に評価を依頼し、「今の状態に合った歩き方」と「適切な福祉用具」を一緒に検討してもらいましょう。

在宅介護は長期戦です。早め早めの見直しが、本人と家族の負担を軽くします。

注意したいサイン
  • 最近、つまずきや転倒が増えてきた。
  • 歩ける距離が短くなり、「すぐ疲れる」と訴える。
  • 段差や方向転換のときにフラフラする。
  • 介助者の負担が明らかに増加してきた。

まとめ

この記事では、筆者がOTとして活動する中で見かけることのある「危険で間違った歩行介助」について解説しました。

間違った歩行介助は、その時だけを切り取って見ると問題がないように感じますが、実はいつ転倒してもおかしくない危険な介助方法です。

高齢者は、ちょっとした転倒が大きな骨折につながり、入院→認知症の進行や身体機能の低下につながることも少なくありません。

また、介助する側にも思わぬ負担がかかっていることも珍しくなく、長く続く在宅介護の障害になりかねません。

介護者と要介護者のためにも、正しい歩行介助の方法を改めて確認・把握して実践していきましょう。

今日からできる一歩として、NG介助を減らし、側方・斜め後方からの介助や声かけ中心のサポートに切り替えてみてください。

そして、不安や負担をひとりで抱え込まず、ケアマネジャーやリハビリ職に相談しながら、「無理なく続けられる歩き方」を一緒に探していきましょう。

介助する人が頑張りすぎないことも、在宅介護を長く続けるための大切なポイントです。