高級ソファは危険?高齢者にすすめにくい理由と安全な椅子選び
自宅に当たり前のように「少しお高いソファ」が置いていませんか。
そして、そのソファに腰掛けた高齢者が、立ち上がれずに困っている場面を見たことはないでしょうか。
見ている側からすると、「いつもは自分で立ち上がれるのに、何をしているのだろう」と思ってしまいがちです。
しかし、このいわゆる【高級ソファ】には、思わぬ落とし穴があるのです。
この記事では、このような高級ソファが在宅介護の妨げになる可能性と、高齢者におすすめしにくい理由を、作業療法士の視点で解説していきます。
介護するうえで意外と見落としがちなポイントですので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ここで言う高級ソファとは、「少しお高めで、ふかふかと沈み込む座面のソファ」のことです。
高級ソファーは高齢者におすすめできない?
作業療法士である筆者としては、「高級ソファは高齢者介護におすすめしていません」。
もちろん、すべての高級ソファがNGというわけではありませんし、だからといって安いソファなら高齢者に適している、というわけでもありません。
ただ、高齢者にはおすすめしづらい要素が、高級なソファには含まれていることが少なくないのも事実です。
このあと、高級ソファが持つ「イマイチな要素」を紹介していきますので、ご自宅のソファをイメージしながら読み進めてみてください。
高級ソファが持つ高齢者に不向きなポイント
まず、高級ソファが持っている特徴をイメージしてみてください。
座面が柔らかく、座ると体が沈み込み、全身を優しくホールドしてくれます。安楽な姿勢を保ってくれるので、ソファによってはそのままうつらうつらと寝入ってしまうこともあるでしょう。
これだけ見ると、「何が問題なのか?」と感じるかもしれません。ですが、極端に言ってしまえば、今挙げた特徴のすべてが、高齢者や在宅介護の場面にとっては不向きなポイントになってしまうのです。
例えば、
「座面が柔らかい」=反発力が得られにくく、立ち上がりの際により大きな力が必要になる
「全身を優しくホールド」=座面や背もたれが後傾しているため立ち上がりにくく、腹筋が使われにくくなり筋力低下を招きやすい
「そのまま眠れる」=日中の傾眠が増え、活動量の低下につながる
といった具合です。
さらに、高級なソファは見た目の良さを演出するために、座面が低めに設計されていることが多い印象があります。
座面が低いと、立ち上がりの際に必要な前傾姿勢が取りにくくなるため、これも立ち上がり動作の大きな阻害要因になります。
総合的に見ると、高級ソファは、高齢者にとって「立ち上がりにくい椅子」であることが多いのです。
高齢者に高級ソファがおすすめできない3つの理由
高齢の要介護者に対してソファをおすすめしにくい理由については前述しました。
ここではそのポイントを、もう少し詳しく解説していきます。
① 座面が沈み込んで「低い椅子+深座り」になる
高齢者に高級ソファをおすすめしにくい一つ目の理由は、座面が大きく沈み込むことで、実質的に「低い椅子に深く座っている状態」になってしまうことです。
立ち上がりやすさのポイントは、ある程度の座面の高さがあり、お尻がしっかり支えられていることですが、ふかふかのソファはこの条件を満たしにくくなります。
深く沈み込んだ姿勢から起き上がるには、太ももやお尻にかなりの筋力が必要になり、「よいしょ」と何度も体を揺さぶるような動きが増えがちです。
その結果、立ち上がりに時間がかかり、介助者の手を借りないと起き上がれない場面も増えてしまいます。
さらに、何度も体を揺さぶるうちに、骨が弱くなっている高齢者では、腰椎圧迫骨折などを起こすリスクが高まる可能性もあります。
② 骨盤が後ろに倒れて猫背・後方重心になりやすい
二つ目の理由は、柔らかいソファに体が沈み込むことで、骨盤が後ろに倒れやすくなる点です。
骨盤が後ろに傾くと、背中が丸くなり、いわゆる猫背の姿勢になりがちです。
この姿勢から立ち上がろうとすると、まず上半身を前に起こし、そこからさらにお尻を持ち上げる「二段階の動き」が必要になり、その分だけ膝や腰への負担が大きくなります。
また、背もたれに体重を預けた状態から動き出すため、重心が後ろに残りやすく、「体を前に倒しても、なかなかお尻が浮かない」という状況が生まれます。
こうした積み重ねが、腰痛や疲労感を強める原因にもなります。
さらに、この姿勢では腹筋がほとんど使われず、いわば「ベッドで横になっているのに近い安静姿勢」が長く続いてしまいます。その結果、筋力低下が進み、介助量が増加する可能性もあるのです。
③ 足裏が床につかず、立ち上がりで踏ん張れない
三つ目の理由は、足裏が床につきにくくなることです。
座面が低く奥行きが深いソファでは、自然と足を前に投げ出した姿勢になりやすく、かかとが浮いたり、つま先だけが床に触れている状態になりがちです。
本来、立ち上がり動作では「足裏全体で床をしっかり踏む」ことが重要ですが、この姿勢では十分に踏ん張ることができません。
その結果、立ち上がりの瞬間にふらつきやすく、バランスを崩して転倒するリスクが高まります。
また、「足に力が入りにくい」という感覚が続くと、本人が立ち上がること自体を怖がるようになり、活動量の低下にもつながってしまいます。
代わりに選びたい「立ち上がりやすい椅子」の条件
高齢者にとって使いやすい椅子のポイントは、「適度な高さ」「沈み込みの少ない座面」「しっかりつかまれる部分」の三つです。
座ったときに膝がほぼ直角(90度程度)に曲がり、足裏がしっかり床につく高さが理想的です。座面はふかふかしすぎず、少し硬めで、お尻が安定して乗る程度のクッション性があると、立ち上がりがぐっと楽になります。
また、立ち上がる際に手で押せるひじ掛けがあると、自分の力で起き上がる練習にもつながります。
背もたれは、寄りかかっても骨盤が後ろに倒れすぎない角度と形が望ましく、「深く沈み込んで戻りにくい椅子」は、できるだけ避けた方が安心です。
ソファから「一人用のしっかりした椅子」へ見直すことは、転倒予防の第一歩と言っても差し支えないでしょう。
どうしてもソファを使いたい場合の工夫
「どうしてもこのソファを手放したくない」「家族全員でくつろぐ場所として使いたい」というご家庭もあるのではないでしょうか。
その場合は、座面の沈み込みを減らすために、硬めのクッションや座面用の板・台を入れて高さを調整する方法があります。
お尻が深く沈まないようにするだけでも、立ち上がりはかなり楽になります。
さらに、立ち上がる位置を決めて、その近くに手すり代わりになる家具や、固定されたひじ掛けを用意しておくと、安全性が高まるので、おすすめです。
介助が必要な場合は、前から引っ張るのではなく、側方や斜め後ろから軽く支えるようにしましょう。
不安が強い場合は、デイサービスやリハビリの場で、作業療法士・理学療法士に「自宅のソファからの立ち上がり方」を相談してみるのもおすすめです。
くつろぐ場所と「立ち上がりやすい椅子」を分ける
一つの家具で「くつろぎ」と「安全な立ち上がり」の両方を完璧に満たそうとすると、どうしてもどこかで妥協が必要になります。
そこでおすすめなのが、「くつろぎ用の場所」と「立ち上がりやすい椅子」を分けて考える発想です。
たとえば、テレビをゆっくり見るときはソファ、食事や書き物をするときはダイニングの椅子を使う、というように使い分ける方法があります。
1日の中で、あえて「少し頑張って立ち上がる椅子」を使う時間を作ることは、筋力やバランスを保つリハビリにもつながります。
家族で動線や生活スタイルを話し合い、「ここはリラックスの場」「ここは立ち上がりやすさ優先」と役割を決めておくと、お互いに納得しやすくなります。
まとめ
高級ソファは、見た目も座り心地も魅力的ですが、高齢者にとっては「立ち上がりにくい」「転倒しやすい」環境になりやすい家具でもあります。
座面の沈み込みや、重心が後ろに偏りやすい姿勢、足裏が床につきにくいといった要素が重なることで、立ち上がり動作の負担が増え、腰痛や転倒のリスクが高まってしまいます。
大切なのは、「高級ソファ=絶対にダメ」と決めつけることではなく、「どんな座り方・立ち上がり方なら安全か」「代わりにどんな椅子を用意できるか」を、一度立ち止まって考えてみることです。
くつろぎの時間を大切にしつつ、立ち上がりやすい椅子や環境を整えることで、高齢者の自立と安全を両立しやすくなります。
ソファや椅子選びに迷ったときは、ケアマネジャーやリハビリ専門職にも、気軽に相談してみてください。