OTとしてリハビリに関わっていると、ご本人様やご家族様から「体が硬くなって思うように動かせないのに、マッサージをしてもらえない」といった訴えを耳にすることが増えてきました。

デイケアやデイサービスを利用している方のなかには、このような経験に心当たりがある方も少なくないのではないでしょうか。

実際、筆者も会議の場で「マッサージみたいな慰安的な手技は意味がないからやめなさい」「ストレッチよりも歩行訓練をしなさい」といった意見を耳にする機会が増えています。

リハビリ業界の一部では、慰安的な手技から脱却しようという流れがあるのは確かですが、本当に徒手的な介入を完全になくしてしまってよいのでしょうか。

この記事では、作業療法士の立場から「慰安的な手技は意味がないって本当?」という疑問に正直に向き合いつつ、ストレッチや関節可動域訓練(ROMex.)をリハビリの中でどう位置づければよいのかを整理していきます。

慰安目的だけの手技は、無意味なのか?

まずは、よく聞かれる問いに率直に答えたいと思います。

「慰安的な手技に意味はないって本当?」

機能改善という観点だけで見るなら、実はほとんど意味がありません

ここでいう「慰安的な手技」とは、次のようなものを指します。

慰安的な手技の例
  • 目的が「気持ちよさ」や「リラックス」に限定されている。
  • そのあとに立ち上がりや歩行などの練習につながらない。
  • 計画書や記録上も「全身マッサージ」程度の記載で終わっている。

エビデンスの面から見ても、このような手技だけで筋力がついたり、歩行能力が大きく向上したりすることは、期待しにくいとされています。

多くの現場では、リハビリは1単位20分、多くても30分程度という限られた時間のなかで行われます。

全身のストレッチをじっくり行おうとすると、それだけで30分以上かかってしまいます。

限られた20〜30分の個別リハの時間内で、できるだけ効果的な訓練を提供しようと考えると、「その時間をすべて慰安だけに費やしてよいのか?」という疑問が出てくるのは、ある意味当然といえるでしょう。

徒手的な介入について注意したい点

前述したように、徒手的な介入だけで機能が大きく改善したり、筋力がしっかりつくことはあまり期待できません。

しかし、誤解してほしくないのは、「機能改善に乏しい=すべて無駄」というわけではない、という点です。

徒手的な介入には、次のような効果が期待できます。

徒手的な介入で期待出来る効果
  • 痛みやこわばりの軽減による「楽になった」という感覚。
  • 触れられることによる安心感やリラックス効果。
  • 人との関わりを通した心理的な安定や楽しみ。

これらは、数値で測れる「筋力」や「歩行速度」とは違う、生活の質(QOL)に関わる大切な要素です。

ただし、専門職としてリハビリテーションの意義を考えると、「慰安だけで時間を使い切ってしまう」のは、やはりもったいないというのも事実です。

「意味がないから一切やめる」のではなく、「どこまでを専門職の時間で行い、どこからをご家族や他のサービスに任せるか」を考えることが重要になってきます。

徒手的な介入は目的を決めて行う

筆者が担当したパーキンソン病の利用者さまで、「寝返りが打てない」「自力で立ち上がれない」という方がいました。

体に触れてみると、全身の筋肉が強くこわばり、柔軟性が大きく低下している状態でした。

前任のセラピストは「揉んでも意味がない」と考え、寝返りと立ち上がりの練習をひたすら反復していたそうですが、動作はほとんど変わらなかったといいます。

そこで筆者は、まず全身のストレッチと頸部・体幹・下肢の関節可動域訓練を行い、そのあとに寝返り・立ち上がりの練習を組み合わせました。

すると、週2回利用、1ヵ月で動作の獲得を目標にしていたにもかかわらず、初回のリハビリから寝返り・立ち上がりが可能になったのです。

このように、「筋肉の硬さが原因で動作ができない」というケースでは、原因へのアプローチとしての徒手的介入は、大きな意味を持ちます。

このケースは少しの対応で劇的な変化が出た例ですが、同じような考え方はパーキンソン病の方全般に応用することが可能です。

この利用者さん、デイケアを卒業したら、また筋肉が硬くなって動けなくなるんじゃない?

そこが、まさに大きな問題なんだよね。徒手的な介入に否定的な人からは、『自宅に戻ったら揉んでくれる人はいないんだから』という意見もよく聞きます。

じゃあ、どうしたらいいの?

この方の場合は、介護を担うご家族さまにストレッチの方法を伝えしました。デイケアの帰りに個別送迎をして手技を一緒に練習していく、というイメージですね。

最終的には、介護される方だけでなく、介護するご家族が『どこまで関わろうとしてくれるか』という熱量も大事になってくるんですね。

具体例① パーキンソン病の場合

パーキンソン病の方では、筋固縮による全身のこわばりや、前傾姿勢が取りにくいことが原因で、立ち上がりや寝返りが難しくなるケースが少なくありません。

このような状態で、いきなり「さあ、立って歩きましょう」と声をかけても、本人にとっては負担が大きく、恐怖感や疲労感が強くなりがちです。

そこで、リハビリの前半では、体幹・股関節・肩周囲など、特に硬さが強い部分に対して、短時間のストレッチや関節モビライゼーションを行います。

完全にほぐしきるのではなく、「前傾姿勢が取りやすい」「一歩踏み出しやすい」状態に近づけることが目的です。

そのうえで、後半の時間を使って、立ち上がりや歩行訓練、方向転換の練習などを集中的に実施します。

このように、コンディショニングと機能訓練をセットで行うことで、単純な【慰安目的の手技】から、【動作につながる介入】へと変えていくことができるのです。

具体例② 片麻痺の場合

卒中後の片麻痺の方では、麻痺側の関節拘縮や痛み、浮腫などが進行すると、衣服の着脱や清拭、ベッド上での体位変換など、日常生活のさまざまな場面に影響が出てきます。

「麻痺しているから動かないし、触っても意味がない」と放置してしまうと、かえって介護量が増え、ご本人の苦痛も大きくなってしまいます。

例えば、肩関節の痛みや亜脱臼感が強い場合には、まず痛みを軽くし、可動域を守ることが、更衣やポジショニングを安全に行うための前提になります。

また、手指の拘縮が進行してしまうと、手のひらが閉じたまま不潔になりやすく、清潔保持が難しくなります。

そのため、手指のROMex.やポジショニングは、「清潔を保ち、皮膚トラブルを予防する」という具体的な目的を持った介入として、大きな意味を持ちます。

こうした準備を整えたうえで、起き上がりや立ち上がり、上肢機能練習などの動作訓練に進むことで、ROMex.が単なる「慰安」で終わらず、生活動作の一部として位置付けられるようになります。

なぜ「慰安的な手技はやめよう」と言うのか

ではなぜ、上司や一部の専門職は「慰安的な手技は意味がないからやめなさい」と言うのでしょうか。そこには、いくつかの背景があります。

  • 個別リハビリの時間が20〜30分と限られている
  • 計画書や記録上、「どんな機能をどう改善したのか」が求められている
  • 外部の目(家族、他職種、保険者)から見て、説明のつきやすい内容が必要

このような状況の中で、「終始マッサージをしているだけ」に見える介入は、どうしても評価されにくくなります。

本来は、本人が楽になり、リラックスできることも大切な価値ですが、制度や書類の世界では「機能的な変化」が重視されやすいという現実があります。

だからこそ、「慰安的な手技はすべて否定」と受け取るのではなく、「何を目的に」「どのくらいの時間」「そのあと何につなげるのか」を意識して組み立てていくことが大切です。の動作につなげるのか」を、専門職側がはっきりさせておくことが大切だと感じています。

本人・家族の希望とどう折り合いをつけるか

利用者さんやご家族の中には、「ほぐしてもらうのが楽しみ」「ストレッチをしてもらうと安心する」と感じている方も少なくありません。

それを「意味がないから」と一刀両断してしまうと、信頼関係が損なわれてしまいかねません。

実際、徒手的な介入を完全に排除していたリハビリスタッフは、利用者さんだけでなく、そのご家族や介護スタッフからも十分な信頼を得られていませんでした。

せっかく、信頼を築きやすくする「ツール」としての手技を持っているのですから、それを自ら手放してしまうのは、非常にもったいないことです。

現実的な折り合いとしては、「やってもらうと楽になる」「楽しみになっている」という気持ちを尊重しつつ、専門職としての時間は 動作や生活を良くするための介入 にあてるよう、工夫していくことが大切です。

「全部やる/全部やめる」ではなく、役割分担と時間配分を調整していくイメージです。

役割分担と時間配分の調整
  • リハビリの前半5〜10分は、目的を絞ったストレッチやROMex.を行う。
  • 後半の15〜20分は、立ち上がり・歩行・更衣などの動作練習に集中する。
  • ご家族にもできる簡単なストレッチやポジショニングを伝え、家族ケアに移行する。

まとめ

本記事では、「慰安的な手技に意味はないって本当?」というテーマについて、作業療法士の立場から考えてきました。

「慰安的な手技に意味はない」という言葉は、ときに利用者さんや家族の気持ち、現場で頑張るセラピストの思いを切り捨ててしまう危険もあります。

大事なのは、「何のために」「何につなげるために」手を添えるのかを、専門職側が丁寧に言葉にしていくことなのでしょう。

機能改善という点だけに絞ってみると、確かに慰安目的“だけ”の手技で得られる効果は限定的です。

一方で、痛みやこわばりが和らいで「楽になった」と感じられること、触れられることで安心できること、リハビリの時間そのものが楽しみになることなど、生活の質(QOL)という観点では決して無意味とは言えません。

とくに、目的がはっきりしているストレッチや関節可動域訓練(ROMex.)は、「立ち上がりや歩行をしやすくする」「寝返りや更衣を行いやすくする」といった動作の前提条件を整える介入として、大きな価値があります。

パーキンソン病や片麻痺などのように、病気やその時々の身体機能によっては、手技と動作訓練をセットで組み立てることで、はじめて効果が発揮される場面も少なくありません。

そのうえで、本人・家族の「してほしい」という気持ちを頭ごなしに否定しないことが大切です。

限られた時間の中でどこまでを専門職が行い、どこからを家族ケアや他サービスに任せるのか…。

その時間配分や役割分担を工夫していくことが、現実的な解決策になるのではないでしょうか。