認知症の高齢者を介護するなかで、しばしば大きな課題として挙がるのが【入浴】です。

お風呂に入ってもらいたいと思って声をかけても、拒否されたり、ひどい場合には暴言や暴力が返ってくることもあります。

そんな経験をしたことはありませんか? 筆者も作業療法士としてご自宅を訪問したり、施設で介護業務を手伝うなかで、この『入浴拒否』には何度も頭を痛めてきました。

ただ、施設であればまだ良い方で、声をかけるスタッフを変更したり、他の利用者さまが入浴している様子を見てもらい、それとなくお風呂へ誘導するといった工夫ができます。しかし、ご自宅ではそう簡単にはいきません。

在宅介護をするご家族さまは、日々の入浴対応に悩んでいるのではないでしょうか。

この記事では、認知症高齢者の入浴拒否の問題について、学術的な知識と、筆者が実際に経験したり試してきた方法を交えながら解説していきます。

入浴への誘導のヒントが、少しでも見つかれば幸いです。

100点満点の解決法はあるのか?

残念ですが、入浴拒否に対して「これさえやれば必ず解決する」という100点満点の対応策はありません。

理由は単純で、【入浴拒否の理由が対象者ごとに異なるから】です。

見た目には同じように見える「入浴拒否」であっても、その背景にはまったく異なる原因やきっかけが隠れている可能性が高いのです。

このため、「相手がなぜ入浴を拒否しているのか」を慎重に考えながら対処していく必要があります。

これには、ご本人様の人生観や医療・介護的な知識など幅広い情報が必要になります。

そのため、ご家族様だけや介護者が一人で抱え込んで悩んでいても、なかなか解決しないケースが多いのです。

なぜ認知症高齢者は入浴を拒否するのか?主な原因

ここでは、「なぜ入浴を拒否しているのか」について、一般的な介護書籍や筆者の経験をもとに、いくつか例を挙げながら考えていきましょう。

① 時間感覚と記憶の障害

認知症の方は、「最後にお風呂に入ったのはいつか」「今日はまだ入っていないのか」といった時間感覚や記憶の面が弱くなりやすい傾向があります。

ご家族から見ると「もう何日も入っていない」のに、本人の感覚では「さっき入ったばかりだ」「昨日も入ったのに、なぜまた入らないといけないのか」という筋の通った理由があることも珍しくありません。

このため、「今日は入浴の日だから入りましょう」「しばらく入っていないのでそろそろ入りましょう」といった説明だけでは、本人の中で納得につながりにくくなります。

その結果、安易な声かけが「そんなはずはない」「意味が分からない」といった怒りや拒否として表れてしまいます。

本人の世界の中では、「今、入る理由がない」のです。

② 実行機能の障害とプライド

入浴は、服を脱ぐ、浴室に移動する、体や髪を洗う、湯船に出入りする、体を拭いて服を着るといった、とても多くのステップから成り立っている複雑な動作です。

認知症が進むと、こうした一連の流れを頭の中で組み立てて実行する「実行機能」が低下し、「何から始めればよいか分からない」「途中で混乱してしまう」という状態になってしまうことがあります。

このとき、本人が言葉にできるのはせいぜい「面倒くさい」「今はいい」といった言葉程度です。

しかし、その裏側には「失敗したら恥ずかしい」「うまくできない自分を見られたくない」という強い不安やプライドが隠れていることが少なくありません。

もともときちんとした性格の方や、人前で弱みを見せたくないタイプの方ほど、その思いが強くなり、かえって頑なな拒否として表れることがあります。

③ 身体・感覚面のつらさ:寒さ・怖さ・痛み

脱衣所が寒い、浴室の床が冷たい、シャワーの音が大きくて驚いてしまう、床が滑りそうで怖い、関節痛で立ったり座ったりがつらい…。

また、心臓や呼吸器の病気があって湯船につかると息苦しいなど、こうした身体的・感覚的なつらさも入浴拒否の大きな要因です。

一度でも浴室で転びかけたり、湯船から立ち上がれなくなって不安になったりといった経験があると、その記憶がはっきりしていなくても、「ここは怖い場所だ」「あそこに行くと嫌な思いをする」という感覚だけが残ることがあります。

その結果、「理由はうまく説明できないけれど、とにかく嫌だ」という形で拒否が続いてしまう可能性があるのです。

④ 恥ずかしさと人間関係のストレス:裸を見られたくない・相性が合わない

裸を他人に見られることへの抵抗感は、誰にとっても少なからずあるものです。

特に、異性の家族やヘルパーによる介助の場合、羞恥心や気まずさがさらに強くなりがちです。

長年身だしなみをきちんとしてきた方や、「人前で乱れた姿を見せたくない」と考えるタイプの方ほど、「裸になるくらいなら入らない」と頑なになりやすい傾向があります。

また、多くの人に囲まれて介助されると落ち着かない、相性のよくないスタッフと一緒に入ることがストレスになっているなど、人間関係の要素が絡む場合もあります。

本人にとって「この人とは気が合う」「この人には逆らえない」といった感覚が、入浴拒否の強さを変えていることも珍しくありません。

⑤ 体調・気分・タイミングの問題:「今じゃない」という気持ち

認知症の有無にかかわらず、人には「今は入りたくない」と感じるタイミングがあります。

眠くてぼんやりしているとき、疲れ切っているとき、楽しみにしていたテレビ番組の続きが気になっているとき、食後すぐでおなかが苦しいときなど、「今はちょっとやめておきたい」という気分になるのは自然なことです。

また、認知症であっても、それまでの生活リズムやスタイルはしっかりと覚えていることがあります。

このような場合、もともと夜に入浴する習慣であれば、午前中に入浴する意識がなく、誘われても拒否につながることがあります。

しかし、ご家族の側には「毎日この時間に入浴させたい」「自分の予定の前に何とか入れてしまいたい」といった事情があります。

そのズレが重なると、本人の中では「今は違う」と感じているのに、周囲からは「どうして今入ってくれないのか」と迫られているように感じられ、「今じゃない!」という強い拒否につながってしまいます。

まずは原因の仮説を立てる

入浴拒否の原因を探るにあたって、行き当たりばったりでは原因にたどり着くのが難しくなります。

ある程度の道筋が必要になるため、ここでは筆者が実践している方法を解説します。

ご家族と一緒に振り返る視点を持つ

入浴拒否が続くと、ご家族様は「うちの親は頑固だから」「性格が悪くなってきた」と、どうしても性格の問題にしたくなります。

一部のスタッフのなかには、その情報を鵜呑みにしてしまう人もいますが、それでは永遠に問題は解決しません。

「何が一番の障壁となり入浴を拒否しているのか」を理解するためにも、ご家族様と一緒に振り返ってみることが重要です。

まず、声をかけたときに、どのような言葉が返ってくるのかを思い出してみてください。

「さっき入った」「きのうも入った」といった言葉が多いのであれば、時間感覚や必要性の理解が難しくなっているのかもしれません。

脱衣所へ向かう手前から嫌がるのか、それとも浴室を目にした瞬間に表情が変わるのかによっても、主な原因は変わってきます。

「寒い」「恥ずかしい」と口にしていないか、介助者の性別や顔ぶれによって反応が変わらないか、といった点も手がかりになります。

こうした観察を通して、「この人は寒さや怖さが大きそうだ」「恥ずかしさやプライドの問題が強いタイプかもしれない」。

「入浴そのものより、タイミングが合っていない気がする」というように、おおまかな仮説を立てていくことが、対応策を選ぶうえで大きなヒントになります。

医療的なチェックポイントを確認する

もう一つ大切なのが、「最近、入浴拒否が目立つようになってきた」場合に、医療的な問題が隠れていないかを確認する視点です。

以前はとくに問題なく入っていたのに、ある時期から急に嫌がるようになったとしたら、体調の変化や痛みなどが関係している可能性があります。

発熱や血圧の変動、息切れ、むくみなどがあると、湯船につかること自体が心臓や呼吸器への負担になります。

皮膚のかゆみや湿疹、褥瘡などがあれば、湯や石けんがしみてつらく感じているかもしれません。

関節の痛みや腰痛があれば、しゃがんだり立ち上がったりする動作が苦痛になっていることも考えられますし、尿路感染症などで全身のだるさが強まっている可能性もあります。

このように、「嫌がり方が変わってきた」「前と様子が違う」と感じたときは、早めにかかりつけ医や訪問看護師に相談してください。

「今の体調でどの程度の入浴なら安全か」「どこまで無理をしないほうがよいか」を一緒に検討してもらうことが大切

OTとして実際に関わった家庭での対応

ここまで見てきたような、インターネットや専門書で紹介されている情報だけで改善できるのであれば、多くの人がここまで苦労していないでしょう。

筆者自身も、書籍やインターネットの情報を頼ってうまくいかなかったことは、数えきれないほどあります。

さらに言うなら、専門書やインターネットで見つけたアイデアがうまくいかなかったために、本ブログのような個人サイトを訪問された、という経緯があるのかもしれません。

ここでは、少し正攻法とは言いにくい部分もありますが、筆者が実際に体験し、うまくいった経験を共有したいと思います。

孫作戦

こちらは、認知症のお母さまが入浴拒否をしていると相談された際の対応例です。

この方は、ご家族がどれだけ説得しても、頑なに入浴を拒否していました。筆者がお話をうかがってみると、認知機能の状態が、20代中盤〜30代頃の感覚に戻っているような印象を受けました。

そこで、日々の会話の様子をご家族から聞き取りしていくと、「自分の娘が誰なのか分かっていない」「孫娘のことを娘だと思っている」といった状況が浮き彫りになってきました。

ということは、浴室の状態も昔とは大きく様変わりしており、その使い方が分からない状態であることが推測できます。

つまり、要介護者本人の意識のなかでは、「誰とも知れない若い女性が勝手に家の中にいて、何だか分からない“お風呂のような場所”に連れて行かれ、『汚いから風呂に入れ』と言っている」という状況だったわけです。

自分自身のことに置き換えてみてください。正直、ゾッとしませんか?「お風呂」と称して何をされるのか、分かったものではないですよね。

このため、話し合いの結果、「娘」だと思われている孫娘に協力を依頼することにしました。

要介護者が若い頃に入浴していた時間帯を選び、お孫さんから「久しぶりに一緒に入ろう」などと声をかけてもらうことにしたのです。

その結果、うまく浴室までは誘導できたものの、やはり浴室の様子には戸惑っているようでした。シャワーや介護用品の使い方が分からなかったのです。

そこで事前にお孫さんに話を通しておき、要介護者にはシャワーチェアに座ってもらい、孫が「私が洗ってあげる!」と声をかけて、洗体と洗髪をしてもらいました。

この対応は見事にはまり、それ以降、入浴拒否はかなり軽減しました。

ただ、これは祖父母から孫世代までが同居している地方のご家庭であったことと、お孫さんが介護に協力的だったことで実現した方法です。

一般家庭にそのまま落とし込むのは難しいという欠点があります。しかし、認知症の捉え方や、声をかける人を変えてみるといった工夫は、比較的実用的な方法だと言えるでしょう。

冷房作戦

また、別のご家庭では、冬場でも「暖かいから風呂は不要」という、ちょっと荒技に近い対応も行いました。 

この方は、もともとお風呂を好んでいたにもかかわらず、認知症の進行とともに拒否が見られるようになったとのことでした。

【暖かい】という言葉にヒントが隠されていると考え、話し合いを実施。高齢化と認知症の症状により、季節感のずれや体感温度の問題が生じていると考えました。

担当看護師に健康状態の管理を依頼し、ご家族の協力のもと、冬場にもかかわらず薄着に変更して居室のエアコンの設定温度を大胆に下げてみました。

そして、浴室と脱衣所をしっかり温めておき、要介護者が肌寒さを訴えたタイミングで、「こっちのほうが暖かくて楽ですよ」「お風呂に行ったほうが気持ちいいですよ」と誘ってみました。

この方法でうまくいき、一応問題は解決したのですが、正直な話をすれば、この方法はかなり強引で、おすすめの手法とは言えません。

あくまでも、このご家庭がこの方法を受け入れるほどに疲弊していたことと、訪問診療のドクター、看護師、介護士、リハビリ職とご家族の間に信頼関係があったことで実施できた方法です。

もし、この方法を試してみようと考える場合は、チーム全体にしっかりと根回しをして、責任の所在まで決めておく必要があるので要注意です。

修理業者作戦

最初の孫娘さんのケースの別バージョンとして、「修理業者」を装って声かけを行うという方法もあります。

このケースでは、息子さんのことが分からなくなっていたので、「お風呂が壊れていて修理をしている」という体で話を進めました。

「お風呂の修理が終わったみたいなので、ちゃんとお湯が出るか見てほしい」と声かけをして、「点検役」をお願いするイメージです。

もともと本人が家のことを一手に請け負い、家を守る役割意識が強い方だったので、「見てほしい」「確認してほしい」という依頼は、効果が高かったようです。

このように、「見てほしい」「手伝ってほしい」「点検してほしい」といった役割を持ってもらうことも、行動を引き出すきっかけになることがあります。

このケースの場合も、ご家族に聞き取りを行ったうえで、ご本人と会話をしつつ、キャラクターをしっかりつかむ必要があります。

もし、浴室内の道具の使用方法が分からない場合は、女性のスタッフやご家族さまにバトンタッチして、使用方法を教える体で、洗体・洗髪・入浴を促すと良いでしょう。

女性の要介護者に対して、男性スタッフが浴室内まで対応してしまうと、おかしな状況になりトラブルになりかねないため、注意が必要です。

対象となる方のキャラクターやこれまでの人生の歩みを把握し、病気の状態を理解することが、「攻略」の第一歩になります。

原因別に試したい「基本の手札」

入浴拒否について、原因を探ってその原因が把握できても、対策がなければ意味がありません。ここでは、入浴拒否の原因別に、基本となる対応方法=「手札」をいくつか紹介していきます。

声かけとタイミングを工夫する

最初に取り組みやすいのは、声かけの仕方と入浴のタイミングを見直すことです。

本人の生活リズムの中で、比較的機嫌が良く、覚醒も安定している時間帯を探し、その時間に合わせて声をかけるだけでも反応が変わることがあります。

朝のほうがスッキリしている人もいれば、午後のほうが体が温まって動きやすい人もいます。

「毎日必ずこの時間」と家族側の都合で決めつけるのではなく、その人の調子の良い時間帯を一緒に探してみる姿勢が大切です。

また、「お風呂に入りましょう」という言葉自体に抵抗を感じる方も多い印象があります。

このため、「汗を流してさっぱりしましょう」「このあとお客さんが来るから、きれいにしておきましょう」というように、入浴そのものではなく、その先の目的を前面に出した声かけを試してみるのも有効です。

一度強く拒否されたときには、その場で押し切ろうとせず、「分かりました。では、あとでまた考えてみましょう」と一度引くことが大切です。

少し時間をおき、別の話題を挟んだうえで再度誘うことで、意外と素直に応じてくれることもあります。

環境調整で寒さ・怖さ・痛みを軽くする

寒さや怖さ、痛みが原因になっていそうな場合は、浴室と脱衣所の環境を整えることが重要になります。

脱衣所や浴室をあらかじめ暖房で温め、床が冷たくないようにマットを敷くと、「服を脱ぐのがつらい」という感覚が和らぎます。

浴槽の中や洗い場に滑りにくいマットを置き、出入口や立ち座りする場所の近くに手すりやシャワーチェアを設置することで、「ここを持てば安心」「ここに座れば楽」という安全基地を作ることができます。

シャワーの勢いを弱め、いきなり頭から強くかけないようにするだけでも、恐怖感はかなり軽減されます。

照明が明るすぎてまぶしいと感じている場合は、少し暖かみのある柔らかい光に変えることも有効です。

さらに、本人の好きな香りの入浴剤を使ったり、静かな音楽を流したりすることで、「ここは怖い場所」から「少し楽しみな場所」へのイメージチェンジを図っていくこともできます。

手順を簡単にして「できている感覚」を守る

入浴動作そのものがハードルになっている場合には、手順を徹底的に簡略化し、「自分でできている」と感じてもらうことが重要です。

下着やパジャマ、タオルなどはあらかじめ家族側で準備しておき、本人にも見えやすいように並べます。

石けんやシャンプーはポンプ式にして、持って押すだけで使えるようにしておくと、「どうやって使うか」を考える負担が減ります。

介助も、最初からすべてをこちらで行ってしまうのではなく、「背中だけ私がお手伝いしますね」「足の裏だけ洗わせてくださいね」というように、部分的な補助にとどめるよう意識すると、「ここまでは自分でできる」という感覚を維持しやすくなります。

本人ができている部分があれば、「ここまでは一人でできていますね」「前と同じようにしっかり洗えていますね」と、できている事実を具体的に言葉にして伝えることで、「まだ自分でできる」という自信を支えることができます。

介助者や一緒に入る人を工夫する

羞恥心や人間関係の問題が強そうな場合は、「誰が介助するか」「どのような関係性の中で入浴するか」を見直してみることが大きな助けになります。

可能であれば、同性の家族やヘルパーが介助を担当し、顔なじみのスタッフや親しい家族が見守り役になるように調整することが望ましいです。

初対面の人や苦手なタイプの人ではなく、「この人なら任せてもいい」「この人の言うことなら聞いてもいい」と感じられる相手を選ぶことが大切です。

場合によっては、「今日は温泉ごっこをしましょう」「銭湯に来たみたいですね」といった声かけで雰囲気を和らげ、一緒に入る・そばにいること自体を楽しんでもらう工夫も役に立ちます。

お孫さんや配偶者と一緒に入ることで、なぜか素直に応じてくれる方もいます。

「誰と、どのように入るのか」が、入浴拒否を左右する大きな要素になっていることを意識してみてください。

入浴にこだわらず「代替プラン」を用意しておく

どれだけ工夫しても、その日にどうしても入浴が難しいという場面は必ずあります。

そんなとき、「今日も入れなかった」と落ち込む前に、「入浴が難しい日の代わりのプラン」をあらかじめ決めておくと、介護者の気持ちがぐっと楽になります。

温かいタオルやスポンジを使い、首まわりや腋の下、陰部、足など、汗や汚れがたまりやすい部分だけを丁寧に拭く清拭は、全身浴が難しい日の大切な選択肢です。

洗面器にお湯を張って足浴をしながら、「足がぽかぽかしてきましたね」「今日はよく眠れそうですね」と声をかけると、本人にとっても「気持ちいい時間」として受け入れやすくなります。

髪の毛については、ノンリンスシャンプーやドライシャンプーを使い、濡らさずに整える方法もあります。

「今日は足浴と清拭ができたから十分」「今週は全身浴が二回できているから上出来」というように、入浴を0か100かで考えず、いくつかの段階に分けて考える視点を持つことが大切です。

それでも難しいときに考えたいこと

ここまで、いろいろと解説してきましたが、それでも入浴拒否が続くことは、実際によくあります。

家族の力だけではどうにもならない場合は、考え方を少し変えてみましょう。

入浴頻度と「完璧でなくていい」という視点の見直し

ここまでいくつかの工夫を紹介してきましたが、どの方法を試しても難しい日があったり、どうしても拒否が強い日が続くこともあります。

そのようなときに、家族が「今日も入れられなかった」「自分の対応が悪かったのではないか」と自分を責めてしまうと、入浴の時間そのものが、ますますつらい時間になってしまいます。

高齢者の場合、毎日必ず湯船につかることだけが正解ではありません。

週に二〜三回程度の入浴に加えて、清拭や部分洗いで清潔を保てていれば、衛生面で大きな問題にならないケースも多くあります。

もちろん、体調や疾患によって個別の判断は必要ですが、「今週はこれだけ入れたから十分」「今日は足浴と清拭ができたから合格」といったように、少し広い視点で状況を見ることも大切です。

色々なアイテムを試す。

最近では、ボディーシートやシャンプーシートといった便利なアイテムが販売されています。

入浴してお湯につかるほどの効果はないまでも、十分に実用範囲内と言えます。

少々コストは発生しますし、こちらも声かけの工夫は必要になりますが、試してみる価値はあると言えます。

使用例としては、実際に自分が体や頭を拭いている姿を見せて、興味を引きます。

もし相手が興味を持てば、そのまま肌が露出している部分を拭き上げるなど、少しずつ拭く場所を増やしていくと良いでしょう。

筆者は、過去に洗顔を嫌っている利用者さんに対して、この方法で対応したことがあります。

コツとしては、いかにも気持ち良さそうに拭いている姿を見せることです。

失敗しても特に問題はないので、やり方を変えながら何度か試してみると良いでしょう。

外部サービスや専門職・福祉用具の活用を検討する

入浴の問題を家族だけで抱え込もうとすると、その負担は想像以上に大きくなります。

デイサービスや訪問入浴、福祉用具レンタルなど、外部のサービスや専門職、道具を積極的に活用することも、在宅介護を続けていくうえで非常に重要な選択肢です。

デイサービスで入浴をしてもらい、家庭では清拭や足浴を中心にする方法もありますし、訪問入浴サービスを利用して、自宅のベッド上で専門スタッフによる全身の清潔ケアを受けられる場合もあります。

作業療法士や理学療法士、福祉用具専門相談員に浴室環境を評価してもらえば、その人に合った手すりやシャワーチェア、浴槽台などを提案してもらうことができ、怖さや負担を減らすことが期待できます。

「家族だけでなんとかしなければ」と考えるほど、入浴の場面はストレスの源になってしまいます。

外部の力を借りることは決して甘えではなく、むしろ在宅介護を長く続けるための大切な工夫だと考えた方がよいでしょう。

まとめ

この記事では、認知症の高齢者に起こりがちな【入浴拒否】への対応を解説してきました。

認知症高齢者の入浴拒否は、「頑固で言うことを聞かない」「わがままを言っている」という性格の問題ではありません。

寒さや怖さ、痛みといった身体・感覚のつらさ、手順が分からない不安、恥ずかしさやプライドの問題、体調や気分とのタイミングのずれなど、さまざまなサインが重なって表れていることがほとんどです。

介護する側としては、「どうして入ってくれないのか」「こんなに言っているのに」と思ってしまうのは自然な反応ですし、その背景には「きれいにしてあげたい」「健康でいてほしい」という優しさがあります。

原因の仮説を立てながら、声かけや時間帯を工夫する、浴室環境を整える、手順を簡単にして「できている感覚」を守る、介助者の顔ぶれを工夫する。

入浴にこだわり過ぎず清拭や足浴も選択肢に入れるといった「手札」を少しずつ試していけば、「まったく入れない」という状態からでも、少しずつ変化が見えてくる場合があります。

今日すぐに完璧な形を目指す必要はありません。「今日はここまでできたから良しとしよう」と、自分自身と家族をねぎらいながら、できるところから少しずつ取り入れていっていただければと思います。

入浴の時間が、少しでも穏やかで前向きなものに近づいていくことを願っています。