在宅介護をしているご家族や、施設の職員さんから「寝心地が良さそうだから低反発マットにしました」「腰に優しいと聞いて低反発クッションを使っています」というお話を耳にします。

たしかに、若くて自分でゴロゴロ寝返りができる人にとっては、低反発のやわらかい感触は魅力的です。

しかし、自分で体位変換や座り直しが難しい高齢者にとっては、その「気持ちよさ」がそのまま安心につながるとは限りません。

むしろ、仙骨や尾骨まわりに圧が集中して、褥瘡(床ずれ)のリスクを高めてしまうケースもあります。

本記事では、作業療法士の立場から、低反発クッション・マットレスの落とし穴と、代わりに考えたいポイントをお伝えします。

低反発クッションが選ばれやすい理由と、そこに潜む誤解

低反発クッションは、触ると柔らかく、ゆっくり沈み込む独特の感触が特徴です。

「体にフィットしてくれる」「圧を分散してくれそう」というイメージから、腰痛や褥瘡の予防にも良さそうだと考える人も多いのではないでしょうか?

実際、短時間座る分には、お尻の当たりが和らぎ、楽に感じるでしょう。しかし、「楽=褥瘡予防になる」「高齢者にはとにかく柔らかいクッションを」といった発想は非常に危険です。

褥瘡の予防で重要なのは、「柔らかさ」ではなく、圧力のかかり方・時間・熱や蒸れといった要素であり、その組み合わせと、自分で動けるかどうかが重要になります。

楽に感じるからといって、そのまま長時間同じ姿勢で座り続けると、かえって皮膚や血流に負担がかかる可能性があるのです。

沈み込みが褥瘡リスクを高める仕組みをやさしく解説

低反発クッションは、体重がかかった部分がゆっくり沈み込み、その形を保つ性質があります。

一見すると、お尻全体がやさしく包まれているように見えますが、実際には仙骨・尾骨・坐骨結節といった骨の出っ張り部分に体重が集中しやすい状態になります。

さらに、深く沈み込むことで、骨盤や背中が固定され、自分でお尻をずらしたり上体を起こしたりといった小さな動きが起こりにくくなります。

その結果、同じ場所に強い圧がかかり続け、血流が滞る時間が長くなります。

また、ウレタンなどの素材によっては熱や湿気がこもり、皮膚がふやけて摩擦やずれに弱くなることもあります。

「沈み込む+動けない+蒸れる」という条件がそろうと、仙骨部や尾骨部に褥瘡ができやすい環境が整ってしまうのです。

筆者の経験でも、重度の認知症で自発的な動作がほとんど起こらない人や、寝たきりで無意識レベルの寝返りが起こりにくい人に対して、低反発素材のアイテムが使用されているケースが多く見られました。

このようなケースでは、「なぜか褥瘡が改善しない」と話題に上がることが多く、リハ職からの意見で思い切って敷物を変更すると、少しずつ改善が見られることもありました。

当然、ご本人の栄養状態や運動量によっても褥瘡の状態は変化するので、一概に低反発素材のクッションや敷物が悪いとは言えません。

しかし、褥瘡対策で行き詰まっている際には、見直しの一候補として検討する余地があるかもしれません。

低反発が「向く人」と「向かない人」を見きわめる

ここで気を付けたいのは、「低反発はダメ」と一律に決めつけることではなく、向く人と向かない人を見極めることです。

比較的筋力が保たれていて、自分で寝返りや座り直しができる方、長時間同じ姿勢でいない方であれば、低反発のクッション性が快適さにつながる場合もあります。

一方で、寝返りが難しい方、座位でお尻がすぐに赤くなる方、痩せ型で骨ばっている方、すでに仙骨や尾骨まわりに発赤がある方などは、低反発に深く沈み込むことで底付きや圧の集中が起こりやすく、褥瘡リスクが高まります。

「起き上がりや座り直しにどれくらい介助が必要か」「同じ姿勢でどれくらい過ごしているか」を、クッションの種類とセットで考えることが重要です。

多くの人であれば、無意識レベルの体重移動や寝返りでも、ある程度の除圧効果を得ることができます。

しかし、やせ型の人の場合、無意識レベルで寝返りや体重移動を行おうとしても、体重の軽さがあだとなり、低反発クッションの沈み込みから抜け出すことが難しいことが多いです。

その結果、一定の場所に圧がかかり続け、さらに蒸れることで褥瘡が引き起こされる危険があります。このため、特にやせ型の人は、低反発の使用を避けた方がよいと感じています。

代わりに検討したいクッション選びと、合わせて見直したいケア

当然ですが、低反発をやめれば褥瘡の問題がすべて解決する、というわけでもありません。

褥瘡予防を考えるときは、クッションの素材+姿勢+時間+ケアの組み立てを、トータルで見直す必要があります。

たとえば、沈み込みが少ない高反発素材やエアクッション、ゲルクッションなど、圧を広く・浅く支えてくれるタイプを検討するのも一案です。

同時に、座りっぱなしの時間を減らす、こまめな体位変換や姿勢の調整を行う、背もたれや足台の高さを整えて骨盤が後ろに倒れすぎないようにする、といった環境調整も欠かせません。

また、食事による栄養の確保と適度な運動も必要で、介護士による体位変換だけ、看護師による褥瘡ケアだけをバラバラに実施しても不十分となることが多いです。

最終的には、さまざまな職種が連携して対応していくことが必要になります。

クッション選びに迷うときは、福祉用具専門相談員や作業療法士、看護師などに相談し、「その方の体と暮らし方」に合った組み合わせを一緒に考えてもらうと安心です。

まとめ

低反発クッションやマットレスは、決して「悪者」ではありません。

ただ、「柔らかい=高齢者に優しい」「低反発なら褥瘡予防になる」というイメージだけで選んでしまうと、寝返りや座り直しが難しい方ほど、かえって褥瘡リスクを高めてしまう可能性があります。

すでに低反発を使っているご家庭や施設では、①本人が自分で動けているか、②仙骨・尾骨まわりが赤くなっていないか、③座りっぱなしの時間が長すぎないか、の3点を一度振り返ってみてください。

「なんとなく良さそうだから」ではなく、「この方の体と生活に本当に合っているか?」という視点で支持面を選ぶことが、褥瘡予防にも、介護する側・される側の安心にもつながります。